『地獄変』〜劇団「遊学生」江原(立光寺)公演

私たち『遊学生』は、元文部科学大臣補佐官・鈴木寛が東京大学と慶應義塾大学においてそれぞれ主宰する二つのゼミの合同プロジェクトとして、但馬地域において公共と芸術の接続可能性を模索することを目的に2020年に発足した団体です。
出石藩出身の東京大学初代総長・加藤弘之を補佐し、のちに自身も第3代総長を務めた濱尾新のキャリアは、豊岡藩の藩費遊学生として慶應義塾の門を叩いたことから始まります。
但馬と東大・慶應のこうした深い縁にちなみ、今度は逆に東京から但馬へ来て遊動的・実践的に学ぶ若者、そのような意味が「遊学生」という団体名には込められています。
『地獄変』劇団遊学生フライヤーより抜粋

取材で訪ねた出石の柳行李職人さんのお話をモチーフに、芥川龍之介の短編小説『地獄編』を改作したもの、とある。柳行李と地獄変が結びつくとどうなるのか興味津々です。

公演内容も興味があるけど、そもそもなぜ東大生の劇団が豊岡(江原)で公演をするの?どんな経緯なの?そちらにも興味がありますね。それは上記公演フライヤー(チラシ)の一節をご覧ください。端的に説明してあります。

昨年の豊岡演劇祭に合わせて公演を予定(豊岡と但東町)されていたものですが、コロナで中止になり、再チャレンジとして今年の豊岡演劇祭に合わせて、その開幕前(9/6〜9/8)に公演をします。昨年、ゼミ主宰者の鈴木寛さんが豊岡に来られ、豊岡アートアクションでお迎えして交流が始まりました。中止は残念でしたが、学生メンバーを豊岡市のあちこちに案内し、その中から、今年は江原でやりたい、と企画がスタートしました。

江原には、東京から「劇団青年団」が引っ越してきて「江原河畔劇場」が2020年オープン。芸術文化観光専門職大学(CAT)が2021年に開学し、その学長平田オリザさんも江原とご縁ができ、CAT学生(1期生)たちが、江原周辺にアパートやシェアハウスに移り住んできている。

そんな背景の中で江原公演が実現しました。

「遊学生」たちが所属する「すずかんゼミ」の鈴木寛さん(現・東大 / 慶大教授)とは20年ほど前、私が東京のビジネススクール(グロービス)に通っていた頃、何度か講義(講演)をお聞きしたことがありとても印象に残っているのですが、巡り巡って、豊岡で再会し、しかも演劇好き同士と知ったのも、何かのご縁かもしれません。

劇団は、東京大学、慶應義塾大学、早稲田大学の現役学生たちで構成されています。

チケットは、Web予約(8/10から)と電話予約(9/1から)。

会場の「立光寺(りゅうこうじ)」さんには、学生たちの宿泊場としてもご提供いただいています。地域行事や文化活動にもご理解が深いお寺さんです。

『はんぶんこ』/ あいのり第1回公演

昨年、豊岡市に開学した県立芸術文化観光専門職大学(CAT)の学生たちによる演劇公演。会場は大学内にある「小劇場そぞろ座」。

パンフレットによると、北海道札幌出身のCAT学生と札幌で演劇活動を行っている演劇人(本作の脚本)との共作。遠く離れた地で得た感性、考え方、出会いを盛り込みながら創作活動をしている。

本作『はんぶんこ』は、「心って、なんだろう。」と問いかける作品。
「一人、部屋の中」にいる若者と「心」探しの旅に誘う仲間たち、CAT学生4人が演じる。

先日、今回出演している学生たちと会話する機会もあり、真剣に演劇と取り組む学生たちの姿が印象的だ。

「新しい」美術館〜藤田美術館

藤田美術館(大阪市都島区網島町10番32号)

大阪でのライブコンサートの折に、夕方の時間を利用して藤田美術館に行ってみた。短時間であったのでじっくりと鑑賞はできなかったのが残念。今年4月に5年かけてリニューアル・オープンした、新しいコンセプト(鑑賞、施設、体験、滞在、寛ぎなど)を持った美術館であることが随所で実感する。

入口から入ると長方形の広い空間が広がる。石を配置した先に展示室への重厚なドアがある。入館チケットは、スタッフの方が端末機(スマホのような)を持って来られて、その場で購入。キャッシュレスを目指すとのことでカード、スマホ決済のみ。これからの美術館のシステムも変化していくのを予感。

藤田美術館多宝塔(高野山光台院から移築)

近代的な直線のアプローチ、四角いロビー空間とは、対照的な庭。「多宝塔」は、桃山時代に建立され、明治の実業家・藤田伝三郎により高野山より移築された。ホッとする佇まい。

入口左側を向くと茶室。天井に取り付けられたプロジェクターが、白い壁面に大きく映像を映し出す。さまざまなイベントを行なえるスペースだろうか。映像は、左官の久住有生(くすみなおき)さん。藤田美術館の壁面を施工。我が家は、有生さんの父・久住章さんによる土壁なので、その作風、技法など馴染みがある。以前、象設計集団の講演会でお会いしたことがあるが、今や日本を代表する左官職人。時代を超え、左官が作り出す土の空間は素晴らしい。

館内も久住有生さんによる土壁の空間。
音声ガイドのサービスはなく、入館前にスマホにQRコードを読み込み、展示物の前でその解説を自前のスマホで読む仕組み。つい、スマホの写真(実物が目の前にあるのに)と解説に集中してしまう。自前のイヤホンで音声を流した方が有効では、が私の感想です。
建物、システム中心の内容になってしまいました。これからの美術館の姿を見た貴重な体験でした。

「畠山記念館の名品」〜能楽から茶の湯、そして琳派〜

京都国立博物館で開かれている『畠山記念館の名品』展に行く。
東京港区白金台にある記念館には、数年前に訪ね鑑賞したことがあるが、現在は改築工事のための長期休館。ということで、畠山記念館の収蔵品の多くが関西に来るのは初めてだそうだ。

荏原製作所の創業者である畠山一清(即翁)が50年かけて集めた茶道具、美術品を紹介。畠山即翁の人となりを交えながら展示。

多数の展示品に圧倒されながら、帰りはもう夕暮れ。

メモ
国宝 『煙寺晩鐘図』牧谿 中国・南宋時代(13世紀)
重文 『井戸茶碗 銘 細川』 朝鮮半島・朝鮮時代(16世紀)
重文 『四季草花下絵古今集和歌巻』 本阿弥光悦/書、俵屋宗達/下絵 江戸時代(17世紀)

「豊岡演劇祭」開催発表

6/30 江原河畔劇場にて

江原河畔劇場にて、「第1回豊岡演劇祭」開催の発表。
平田オリザ氏と中貝宗治豊岡市長とで報道陣に向けて記者会見。

9月9日〜22日。メイン会場の江原河畔劇場、城崎国際アートセンター(KIAC)、市民会館などの6会場で。富山県利賀村演劇祭を主宰する演出家 鈴木忠志による玄武洞野外公演は大注目です。

コロナウイルス感染の影響を受け、規模の縮小、海外からの劇団はなく、諸々の対策を打っての公演となる。

玄武洞を舞台に(鈴木忠志演出)

今年の9月に「第1回豊岡演劇祭」が開催される。コロナ感染の最中、その動向が気になっていましたが「開催(予定)」と聞いてホッとしている。その目玉は「鈴木忠志演出の公演」。(鈴木忠志大ファンの私にとって間違いなく目玉なのだ)。

鈴木忠志さんは、1960年代から「早稲田小劇場」を主宰、1976年に拠点を富山県利賀村に移し、劇団SCOTと改称し、世界演劇祭「利賀フェスティバル」主催。
私は学生時代から鈴木忠志のファンで、早稲田小劇場、岩波ホールでのギリシャ悲劇シリーズ、第1回利賀フェスティバルにも行きました。

その下見をするために1月に続いて、2回目の現地確認に同行させていただいた。

舞台と照明について指示を出す鈴木忠志氏。

内容について、この時点で公表の是非がわからないので詳細は控えますが、玄武洞を背景にした野外公演となる。
鈴木忠志演出の舞台が豊岡で観られる。
どんな舞台になるのか今から楽しみです。

ベートヴェン「運命」〜ピアノとダンスの初顔合わせ

城崎国際アートセンター(KIAC)「おんぷの祭典」のコラボによるピアノとダンスのパフォーマンスの稽古がいよいよ始まった。その初日の顔合わせと稽古に立ち会いました。

ダンスは森下真樹さん。振付家・ダンサー、世界30都市でソロ作品を上演、「ダンスカンパニー森下スタンド」を主宰。東京や他の都市での公演をもっと早く観たかったのですが、コロナの影響で全てキャンセル。やっとKIACでご挨拶できました。

ピアノは碓井俊樹さん。東京芸術大学を経て、ザルツブルグ・モーツァルテウム芸術大学で研鑽。ウィーンと東京を拠点に世界中を飛び回り演奏活動。「おんぷの祭典」の音楽監督としてもう6年ぐらい親しくさせていただいる。

今回は、ベートーヴェン 交響曲第5番『運命』全楽章をピアノの演奏で踊る。
初稽古を見学させていただき、その期待は膨らむばかりです。

公演は、
日時 : 2020年7月26日(日) 14:00〜
会場 : 城崎国際アートセンター・ホール
料金 : 1,000円
問合せ: KIAC(9:00〜17:00) tel : 0796-32-3888

豊岡市文化講演会〜平田オリザさん

豊岡市文化協会主催の講演会に参加。
講演テーマは『文化都市豊岡の街づくりの展望と地域文化活動の役割』。

コロナ感染対策の自粛や規制により、生活、経済の停滞は勿論、芸術活動も大きな打撃を受けている。本来、災害や病いなど、大きな苦しみの助けにもなるはずのアートの活動が止まっている危機感の話題から始まる。二つ(阪神淡路、東日本)の大震災のあと100年、200年前に作られた唱歌や馴染みの音楽に癒され、地域に伝わる祭りや芸能で絆を確かめた。今、文化活動が止まると100年後にも影響する。

今年9月に第1回目として始まる「豊岡演劇祭」のビジョンは、5年でアジアNo. 1に、数年で世界で認知される演劇祭になる。演劇祭の成功の3つの鍵は、特徴ある舞台がある。(市民会館、城崎国際アートセンター、永楽館、江原川畔劇場など)、宿泊施設が完備(城崎温泉、神鍋高原の民宿など)、ネットワーク(劇団活動やオリザさん自身など)。豊岡は全て揃っている。

会場から「県立芸術観光専門大学の卒業生はどんな仕事に就くのか?」の質問。
答えとして、
「観光より」としては、①城崎・神鍋など旅館・宿泊業などの経営、②観光関連として「観光行政」「観光戦略専門家」など。
「芸術より」としては、③文化行政、文化庁、文化政策、劇場経営など、④作家、演出家、役者などプロとして活躍。

参加者は、豊岡市の文化団体(音楽関係、美術、書道茶道など)の人たち。みなさん頷きながら講演を聴いていらっしゃいました。

「がっせぇアート展」が10周年を迎えた

記事にするタイミングを逸しましたが、先日10月6日まで(豊岡稽古堂にて)、10月9日まで(但馬13ヵ所の展示場所)にて、「がっせぇアート展10周年記念展」が開催された。「がっせぇアート」を主宰している茨木ご夫妻とは30年以上のお付き合い、娘の朝日ちゃん(「ちゃん」ではなく「さん」だな)の作品もずっと小さい時から観てきた。

NPO法人を立ち上げ、さらに積極的に活動されているのは凄いことだといつも鑑賞させていただいている。東京・表参道でのアート・ストリート展でギャラリーを紹介させていただいたことが、楽しい思い出。

新しい作者も加わっているという。毎回、カラフルで、緻密で、おおらかで、ユーモアがあって、驚くようなアイデアで、仰天してしまう、素晴らしい作品が鑑賞できるのが楽しみです。

展示の仕方を工夫すると作品が全く違った魅力を発揮するのでは、人の胸を打つ作品として評価も上がるのでは、とそんな可能性を思いながら鑑賞しました。

※ 特定非営利活動法人がっせぇアート

“shuffleyamamba”〜余越保子ダンス作品

久しぶりに観た本格的な舞踏(私はそう呼びたい)と音楽と映像が入り混じったパフォーマンス。学生時代に観た芝居や暗黒舞踏、音楽とパフォーマンスの公演を思い出す。

演出は余越保子氏。3年前にKIAC(城崎国際アートセンター)で滞在創作活動をしている時に訪れた「永楽館」に興味を持ち、以来、この舞台を想定して制作・演出したのが今回の演目。

公演後のトーク。(左から2人目が余越保子さん、3人目がゲルシー・ベルさん)

英訳された古事記にヒントを得て制作した『SHUFFLE』(2003年、ニューヨークで初演)と世阿弥の「山姥」のストーリーをシャッフルさせるという試み。日本の古典芸能における女性像をテーマに繰り広げられる。

実際に出演し、共同演出、音楽を担当したGelsey Bellさんの音楽も素晴らしかった。効果音、役者の背中に縛り付けた小型ラジオ(スピーカー)から流れでる音。ゲルシーさんの歌、謡曲、どれも面白く、素晴らしい。パフォーマンスと音楽とが高度に結びついた見事な舞台だった。