あったものがなくなる。なかったものが現れる。動きこそが生命にとって本来の情報である。それによって環境の変化を察知し身構える。情報は常に好意を引き起こすものとしてある。だから同じ匂い、音、味が続いたらそれはもう情報ではない。私たちは自分の唾液を塩っぱいとは感じない(が、キスの味は分かる!)。新しい情報の創出のためには、環境が絶えず更新され、上書きされなければならない。そうでないと変化が見えない。ネット社会の不幸は、消えないこと。小さな棘がいつまでも残る。情報は消えてこそ情報となる。
(「トカゲを振り向かせる方法」 p30)
朝日新聞に連載されていたエッセイ集。日常の出来事、自然界の現象を生物学者としての見識を散りばめながら、その本質を明らかにしていく。当たり前と思っている事象も、なぜ?と疑問を持つと分からないことは結構ある。逆に「腑に落ちない」「納得いかない」などの社会問題、人生経験、人間関係のトラブルなど、生物的に、生命の必然として解き明かしてくれる。
マップラバー(Map Lover)とマップヘイター(Map Hater)の話も面白い。
マップラバーは、地図大好き、何をするにも全体像を把握し、自分の場所を確認してから目的地に向かう人。マップヘイターは、地下鉄の改札を出ても百貨店に入ってもいきなり歩き出す、でも目的地には到達する。
秀才のマップラバーは、密かにマップヘイターを恐れる。マップヘイターの方がより逞しく、危機に強いから。私たちの身体は細胞のマップヘイター的な行動によって形成された。しかし、脳は地図を欲しがってしまう。
あなたはどっち?身体と脳の関係はなぜ?
こんなお話がいっぱい。優しい言葉を使いながら刺激いっぱいの本です。