『動的平衡3』 福岡伸一・著

私が考える生命感のキーワードは「動的平衡」である。生命は絶え間のないバランスの上にある。押せば押し返し、欠落があればそれを補い、損傷があれば修復する。生命を生命たらしめるこのダイナミズムを動的平衡と呼びたい。
『動的平衡3』 福岡伸一・著
(第7章「がんと生きる」を考える)より (p123)

 

「平衡」とは、天秤棒が水平になっている状態。つまり、ある物質や状態が安定して存在している状態をいう。私たちの身体は約37兆個の細胞からなっていて、ほとんどの細胞は常に更新され、古くなった細胞は死に、積極的に壊され、新たな細胞に入れ替わる。今日の私は昨日の私とは違い更新されている。新たな細胞分裂の際には、必ずDNAの複製が行われ、遺伝子情報は継承される。そのことを「動的平衡」と言う。

生物学者の目で様々な事象を解き明かしてあるのが面白い。
3つほどの事例を挙げてみると、

スポーツ、芸術、技能などのプロフェッショナルの共通点は、天賦の才能の有無以前に、1万時間の集中して専心する努力をしている。(1万時間とは、1日3時間練習するとしたら、1年に1000時間、それを10年継続して行う)。プロの子女はよく同じ道を歩むことが多いが、DNAには、ピアニストの遺伝子も将棋の遺伝子も存在していない。DNAには人を生かす仕組みは書かれているが、いかに生かすかは一切記載はない。親はDNAではなく環境を与えている。氏より育ち、との見解。

Appleの創始者のスティーブ・ジョブズの有名なスピーチの一説「コネクティング・ザ・ドッツ」(点と点がどのような時、どのようにつながるかは事前にはわからない。後になって振り返った時に、それが意外な線で結ばれていることに気づく)を例に挙げ、近代医学史の中で、抗生物質など感染症に効く発見は、実験の失敗を繰り返す中の偶然から発見されたものが多い。失敗からくる偶然。

音楽は時間の芸術である。ストラディヴァリのヴァイオリンは、楽器の中に時間を作り出し、音が音を求める動的なものとして作られ、絶えず息吹を吹き込まれ、温度を受け入れ、記憶を更新し、解釈され続けるもの、つまり生命的なものとして生み出され、今なお生きている。だから、その後の技術を持ってしてもストラディヴァリを超えられない。

サブタイトルの「生命理論で解く」の真骨頂だ。

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