DUO J コンサート〜中澤きみ子&大須賀恵里

ヴァイオリニスト中澤きみ子さんとピアニスト大須賀恵里さんによるデュオコンサートを鑑賞。東京・代々木のHakuju Hallで行われました。「DUO J」というコンビで3回目のコンサート。過去2回の案内もいただいていてが都合がつかず、今回が初めて。

開演前のHakuju Hall

前半は、モーツァルトとベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ。モーツァルトの時代、つまり18世紀後半までは、「ヴァイオリン伴奏付きのピアノ・ソナタ」と呼ばれ、ピアノが主役だった、という面白いエピソードが紹介されている。(プログラムより)

実際に、モーツァルトとベートーヴェンのソナタを聴き比べてみると、その主役のバランスのみならず、二人の天才の作風(人生)の違いがくっきりと浮かび上がってくる。

後半は、グリーグのヴァイオリンソナタ第3番。ノルウェー民謡を取り入れ、民族的な意識が強く、どこか郷愁を感じるロマン派、国民楽派の音楽だ。中澤きみ子さんにとって初演。創造力と集中力と体力と、まだまだ衰えぬ力強さと円熟を感じさせる深い演奏に感動。

ラフマニノフ 『交響曲第2番 ホ短調Op.27』

ラフマニノフ 『交響曲第2番 ホ短調Op.27』
ロンドン交響楽団
指揮:アンドレ・プレヴィン

第1楽章 Largo – Allegro moderato
第2楽章 Allegro molto
第3楽章 Adagio
第4楽章 Allegro vivace

この交響曲第2番を聴くきっかけは、NHKの「ららら♪クラシック」。ロシア、ペテルブルクでの交響曲第1番の初演大失敗の後、満を持してこの第2番を書き上げ(1907年)、見事、同じペテルブルグで初演(1908年)し、大成功したというストーリー。甘いメロディーの第3楽章Adagioを取り上げ解説。(6度離れた音階がキーポイント)という興味深い解説。

「甘いメロディー」を書かしたらピカイチのラフマニノフというまえぶれにも興味あったが、ドイツのドレスデンに滞在中の作曲というのも興味を持つ。昨年、ドイツの旅で訪ねたドレスデンを思い浮かべながら聴いてみよう。

『ベートヴェンを聴けば世界史がわかる』片山杜秀・著

フランス革命のあと、元々はルイ14世が宮廷の音楽家たちを養成するために造った王立声楽・朗読学校が改編され、1795年に広く市民社会で活躍する音楽家も育てる音楽院となります。それはこれまで王に近い階級だけが独占していた音楽への道を、広く開放するものでした。その意味では、1793年に開館され、民衆にも美術品を公開したルーブル美術館と同様、市民への「高級芸術」の開放だったのです。王のための芸術が、市民のための芸術に変じたのです。
『ベートーヴェンを聴けば世界史がわかる』片山杜秀・著(p176)

音楽(クラシック音楽)の歴史を理解するキーワードを駆使しながら、ヨーロッパ史を中心に歴史を辿る。

モノフォニー(単旋律)=中世、グレゴリオ聖歌、声楽(アカペラ)、一つのメロディをみんなで、教会音楽、神の権威と秩序

ポリフォニー(多声音楽)=12世紀ごろ、器楽音楽・伴奏、十字軍、イスラム文化、ローマ教会の弱体

コラール(賛美歌)=16世紀、宗教改革、ルター(聖書のドイツ語翻訳、作曲)、独唱・独奏、個人の祈り、単純化へのプロセス、やがて自由主義・民主主義へ

オペラ=16世紀、古代ギリシャ演劇の復活、コロス、現世、世俗

ロマン派=大都市、革命、戦争、王侯貴族から市民へ、産業革命、成熟した近代市民、娯楽、高級芸術、音楽学校=アカデミズム

ワーグナー=民族主義、近代+土着→国民楽派、普仏戦争、総合芸術

20世紀音楽=洗練→楽器・音色の均質化、ピアノの発達、典雅や微妙なニュアンス、教養ある市民、超人志→ニーチェ、霊的、近代科学、世紀末、無調音楽、幻想、死、前衛音楽、リズムの破壊

大まかにキーワードを拾ってみました。それぞれの歴史・時代を背景に、いろんな作曲家、作品が浮かんできますね。そんなことを思い浮かべながら聴くのもまた楽しみです。

ミュージックCDの楽しみ

1960〜1970年代はレコードで、1980年代からはCDで、ジャズ、ロック、クラシックとずっと聴き続けてきた音楽。

正確に数えたことはないけど、レコードは1500枚以上、CDも1000枚近くあると思う。もっとも、人生の節目、節目で、引越しなどの際に、中古店に持ち込んだり、2004年の台風23号の浸水でレコードが破損廃棄したりして、何百枚かは減っている。それでも1000枚を越すレコードとCDは現在もある。

レコードは、現在プレーヤーがないので蔵に仕舞ってあるが、CDはあっちに行ったり、こっちに移動したり、置き場所を変えながら、現在は私の部屋の天井下に収まっている。

iPodが登場した時には、レコードをデジタル化してiPodに入れて、毎日聴いていた。1000枚以上あるレコードをデジタル化するには、休日に懐かしいレコードに針を落としながら、ライナーノーツを読みながら、1枚1枚、デジタル録音していく。楽しい時間なのだが、全部楽しむには膨大な時間が必要。

そしてCD。
お気に入りのCDから順番にiMacに入れながら聴こう。

それぞれのCDを買った頃の時代や自分の思い出をフラッシュバックしながら聴くのもなかなかいいもんだ。

メンデルスゾーン『交響曲第5番ニ長調(ニ短調)《宗教改革》』

 

フェリックス・メンデルスゾーン
交響曲第5番 ニ長調(ニ短調)Op.107《宗教改革》

イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:レナード・バーンスタイン

宗教改革(Reformation)は、マルティン・ルター(1483〜1546年)が1517年に「95ケ条の論題」を公表してローマ教皇を批判。聖職者階級の腐敗を批判し、聖書に基づく信仰によって救われると説いた。これがきっかけとなり、ローマ・カトリックからプロテスタントが分離した。

ルターは、ラテン語で聖書や聖歌はラテン語だったのをドイツ語に翻訳。自身も賛美歌を作詞作曲している。それがこの交響曲第5番の第4楽章の冒頭、フルートの演奏で登場する。

音楽の歴史的には、以前のグレゴリオ聖歌からポリフォニーの教会音楽は修道士や神父が歌い、信者が聴き手だったのが、プロテスタントでは、信者が歌い祈る。歌詞はドイツ語、メロディはシンプルで覚えやすいものとなった。これがコラール(賛美歌)へと変遷した。

ルター派プロテスタントであるメンデルスゾーンは、第4楽章にルターが作曲した「神はわがやぐら」を引用している。そして標題を「宗教改革」とした。

フォーレ「レクイエム」

ガブリエル・フォーレ ”レクイエム ニ短調  作品48″
Gabriel Urbain Fauré  ”Requiem in D minor, Op. 48″

キリ・テ・カナワ(ソプラノ)
シェリル・ミルンズ(バリトン)
モントリオール交響楽合唱団
モントリオール交響楽団
指揮:シャルル・デュトワ

1. 入祭唱とキリエ
2. 奉献唱
3. 聖なるかな
4. ああイエスよ
5. 神の小羊
6. われを許したまえ
7. 楽園にて

私にとってレクイエムと言えばフォーレ。
(3大レクイエム=モーツアルト、ヴェルディ、フォーレ)

「からりと晴れた冬の乾燥した日、冷たく凜とした空気に触れる」と言った感じかな。

特に「5.神の子羊」の出だしのメロディは最高だ。少しすると合唱が入り、重厚ではあるが優しく包まれる。合唱とオーケストラの絡み合うハーモニーがなんとも言えない。約6分の楽章。聴いてみていただきたい。

『クラシック音楽全史』松田亜有子・著

また、音楽家の役割や名曲が生まれた背景には、キリスト教の誕生や、王侯貴族の没落とブルジョアの台頭、産業革命、民族自決運動、ジャポニズムなど、様々な社会、経済の動きが色濃く反映されています。音楽というフィルターを通じて、新たな世界史の見方もできるのが面白いところではないかと思い、意識的にそうした背景の解説も多く盛り込んでみました。
『クラシック音楽全史』 松田亜有子・著

と言うことで、歴史や時代背景を知りながらクラシック音楽を深く味わいたいという私の思いにピッタリ。

「世界共通のビジネスツール」と帯書きにあるように、音楽ジャンルと作曲家の解説という基礎的な内容だが、改めて(何度でも)、音楽史を俯瞰しながら、音楽を聴くのは楽しいものです。

巻頭の「音楽家年表」と「ウィーン体制(1815年)のヨーロッパ地図」が嬉しい。

「音楽家年表」は、バロック、古典派、ロマン派、後期ロマン派、近現代と続くクラシック音楽の変遷と作曲家が生きた年代一目瞭然。バッハとヘンデルが同年生まれ、ハイドンの年齢とモーツアルトとベートーヴェンの年齢の重なり合いなど、色々と想像してみることができる。

「19世紀のヨーロッパ地図」は、この秋にドイツ、ウィーン、プラハと旅をした記憶を辿りながら、音楽を通してハプスブルク家の強大さとその影響に想いを寄せるのも面白い。

東京でウィーン・フィルの友人と

“Wiener Philharmoniker Week in Japan 2018″。
ウィーンフィルの日本公演が始まった。
10月のウィーン訪問時に、ウィーン国立歌劇場でオペラを楽しみ、その翌日にウィンフィル・メンバーで友人のシュテファンの自宅でBBQのご馳走になった。今度は東京で「お返し」とばかりにサントリーホールのウィーンフィル公演に向かった。

1日時間があると言うので、根津美術館や上野の美術館巡りでもしようかと目論んでいたが、よく考えると月曜日はどこも休館日。じゃあ、どうしようと考え抜いた結論がこれ、なんと「はとバス観光」!

もう何回も日本公演で日本には来ているシュテファンだが、流石に「はとバス観光」は初めて。「どうだ、参ったか」と我ながらグッドアイデアだと自画自賛。実は、皇居、国会議事堂、霞ヶ関、赤坂界隈の位置関係がもう一つ掴めていなかった私が一番興奮かも。

演奏前、サントリーホール入り口で撮影。
右側が、Stefan Gartmayer、左側がSebastian Bru。
2人ともウィーンフィルのチェリスト。
ウィーンでは、シュテファンもセバスチャンも家族ぐるみでBBQを楽しんだ友人たちだ。

シュテファンは本日はオフだが、セバスチャンは演奏があるので、隣の「ANAインターコンチネンタルホテル東京」で軽い食事。セバスチャンは餃子が大好きと言ってたので中華料理。

今日のプログラムは「室内楽スペシャル〜ウィンフィル オペラを謳う」。弦楽六重奏、チェロ四重奏、木管アンサンブル、打楽器アンサンブルなど、いろんな楽器の組み合わせでオペラの前奏曲や有名な場面を再現する。

R.シュトラウス、モーツァルト、ワグナー、ビゼーなどのオペラから選曲。一番印象に残ったのはワグナーの「ローエングリン前奏曲」「ジークフリート牧歌」。ワグナーのメロディとハーモニーはなにものにも変えがたい魅力だ。

メンデルスゾーン『ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 Op.64』

フェリックス・メンデルスゾーン=バルトルディ
ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 Op64
チョン・キョンファ(vl)
モントリオール交響楽団
指揮:シャルル・デュトワ
録音:1981年7月

クラシック音楽で「あなたにとってこの1曲と言えば?」と尋ねられる即答できますか?私はこれ。メンデルスゾーンの「ヴァイオリン協奏曲(コンチェルト)」。

通称メンコンと言われる、おそらく誰でも知っている(旋律を聴けばあああれかとわかる)曲。 私はこの曲を最初に聴いたのは小学校1年生の頃。毎日毎日聴いていた。その頃飼っていた文鳥が曲が流れると必ず反応して唄う「ピーピーピー」「ピピピピピー」「ピポピポピー」と唄っていた。今でもこのメンコンを聴くと文鳥が頭に浮かんでくる。

自然に囲まれ、時間がゆっくりと流れ、毎日が楽しく、あれもこれも面白いものばかり。毎日がとても新鮮であった。私の記憶(心)の中でそんな情景が浮かんでくる。それが、私が音楽が好きになった瞬間であり、スタートであったと思います。 私にとってかけがいのない永遠の1曲なのです。

『ベートーヴェンの生涯』青木やよひ・著

その研究の過程で、極めて人間的で徹底した自由人で会ったベートーヴェンの相貌に接した私は、陰鬱なウィーンの場末で生涯を過ごした「陰気で悲劇的な英雄」という従来のベートーヴェン像を一掃したい思いに駆られた。シントラーの捏造やマリアム・テンガーの偽書にもとづいてこうした誤ったベートーヴェン像を世界的に流布したのは、ロマン・ロランの『ベートーヴェンの生涯』に他ならなかった。戦後の一時期、ロランから生きる力を与えられた私にとって、彼を批判することは辛いことであったが、先入観の恐ろしさを自戒するためにも、本書ではあえてそれを行った。
『ベートーヴェンの生涯』 青木やよひ・著(「あとがき」より p289)

今回のドイツ訪問の目的の一つは、ベートーヴェンを訪ねることだった。2年半前の台湾での交通事故により私自身の左耳聴力が半減し、耳鳴りと戦った日々を体験。治療の間、聴力を失ったベートーヴェンの苦悩を思いながら過ごしました。遺書を書いたというハイリゲンシュタットを訪ねてみたかった。

動機はともかく、交響曲第6番《田園》やヴァイオリン ソナタやピアノ ソナタが大好きな曲なのでよく聴いていた。一度、その作曲の舞台となったウィーンへ行き、確認したいと思っていました。

そんな折に読んだのがこの著書。

著者の青木さんは、人生の50年以上をかけて、諸説あり謎とされていたベートーヴェンと相思相愛の女性は誰か、を追い続けた人。執念とも言えるその探求の過程でベートーヴェンの人となりを明らかにしていく。

現地を何度も訪れ、丁寧に貴重な一次資料を解読し、研究者を数珠つなぎのように訪ねた情熱は特筆もの。

ベートーヴェンのファンなら一読すべき、本と言える。