アートでまちづくり〜「倉吉未来中心」に思う

どうして倉吉? (倉吉で全然問題ありませんが)
と思いながら「ウィーン・リング・アンサンブル」のニューイヤーコンサートに行きました。

コンサート会場の「倉吉未来中心 大ホール」に到着すると、大きな建物と広い敷地に驚く。一緒にコンサートを聴いた鳥取に住む友人Gさんから「鳥取県と倉吉市が共同して、中部鳥取の文化振興を目的とした複合施設」との解説あり。

「倉吉未来中心」施設案内には、「人・ものの交流、情報発信」「鳥取県中部地域の活性化の拠点」「大小のホール、セミナールーム、様々なイベントが開催できるアトリウム」が備えられている。

普通「◯◯センター」となるところ「倉吉未来中心」と「中心」となっているのが面白い。中国語ではセンター(center)は「中心」と書く。それと倉敷は鳥取県の中部であることを意識してのネーミングだろうと察する。

アトリウム前の広場では高校生たちがスケボーやったり、並びにある広場では子どもたちが遊ぶ遊具のある公園、さらに数店舗のレストランが入っている建物がある。図書館、温水プールもある。駐車場も広く(774台)、全体としてゆったりとし、様々な市民のニーズ(コンサート、スポーツ、散歩、会話、くつろぎの場所)に応えることができている。(敷地面積42,000㎡)

巨大な複合ビルとも言える施設。アトリウムの上部は木製の梁が巡らされガラス張り、明るい広場が気持ち良い。が、大きいためによる無駄、ランニングコストはどうなのか、など少し気になる点もありそうだ。大ホール収容人数1503席・オーケストラピットあり、小ホール310席、リハーサル室、練習室2部屋、セミナールーム9部屋。オープンは2001年(平成13年)。少しバブリーな気もする。

現在、豊岡市も新文化会館建設のプロジェクトが進行中。
新文化会館の完成予想動画もあります。

場所(豊岡市大磯町/道号体育館と豊岡南中学校の間)と基本設計は決定している。少し場所が窮屈な感じがする。倉吉未来中心ほどではなくても、YBファブ(養父市)をみても、広々とした空間が心地よい。木立も充実させて心地よい立地環境もお願いしたいところです。

それよりも何よりも大切なのは、その文化会館の運営内容(運営理念、組織、人材、創造性多様性のある交流)をしっかりとやっていただきたい。そこには市民として注視しながら、意見・要望をしていきたいと思う。

アトリウムで一枚のチラシが目に入った。

アンディ・ウォーホルの『ブリロ・ボックス』だ。昨年、確か「なんでこんなベニヤの箱に3億円も使うのか」との市民(議会?)の抗議があって話題になった市がニュースで報じられていた。そうかそれは倉吉市だったんだ。「5個もいるのか?1個でもいいのでは」など、冗談かと思う批判もありました。

鳥取県は「全日本最後の県立美術館」と言われる県立美術館をこの倉吉未来中心の横に設置する計画。力が入っているのはよく分かる。ポップカルチャーを目玉にする思惑のようだ。

美術も音楽も、そして演劇も。
地方で楽しみ、地方から世界へ発信する思いはどこも一緒。
豊岡市もしっかりと、市民に愛され、世界にもアピールできるアートを発信していきたい。

2022年、私の「今年の漢字」は「建」

今年、築30年を迎えた自宅(ドーモ・キニャーナ)。10月には30周年記念の集い
建築は象設計集団に設計を依頼し、5年をかけて1992年に完成。ゲストをお招きし、毎月約50名が集った但馬コネクションの8年間。多くの友人に泥出しを助けてもらった2004年台風23号の水害。ともかく、楽しい時も苦しい時も家族、友人に囲まれ、たくさんの人が集まることができた30年が無事に過ぎる。それらを可能にしてくれたドーモ・キニャーナにも感謝しなければならない。

8月に完成したシェアハウス「江原_101」。芸術文化観光専門職大学(CAT)の学生たちが住む。近所の古い民家を大改築。共有スペースをたっぷりとり、学生仲間や地域住民とも交流できる空間(土間)も作る。

建てることもあれば解体撤去もある。8月、近所の築50年以上経った3階建てのビル(元・呉服店)を撤去。巨大な四角い建築物だったので、昔の街並みが少し蘇った気がする。

ガレージの増築工事は9月に完成。

最後は自宅(ドーモ・キニャーナ)の改築工事。現在も続く。
古いものを大切にし、新しい価値を創造する。周囲の環境にも配慮する、そんな建築にしたいと思った2022年でした。

忘れてはいけない、もう一つの「建」。
今年は、孫のKくんとも、たくさんの時間を過ごす。サイクリング、ライトトラップ(昆虫採集)、ピアノ、ウォーキング、いろんなことができました。これが一番の嬉しいことかな。次はドーモ・キニャーナの40年をKくんと迎えることが目標だ。

光の庭〜土の壁と光

穴の空いた屋根から光が差し込む。
地面から見上げると1階、2階、3階の窓が見える。
屋根からの陽光を各フロアにボーッと優しく届けるための「光の庭」。

土の大壁は、左官の久住章さん制作。風雨に晒され100年ぐらい経った表情にしようと塗ったもの。実際に30年経っても、その土壁の美しさは増すばかり。時間を超えた存在感がとても心地よい。

2022/08/26ブログにも紹介
「光の庭」〜雨も雪も降り落ちてくる

土壁〜差し込む朝日

土壁に差し込む朝日。
おや?なんだ?
3階改築に伴い撤去する寸前の足場の陰。

土壁の表面にある髭のような文様。但馬地方の木造家屋の中塗りの土壁。この後、仕上げ塗りをするための土ののりをよくするための仕掛け。「すさ」と言う。藁屑、糸屑などを使う。ドーモ・キニャーナ設計では仕上げ塗りをする予定だったが、この「すさ」の文様が美しいので、中塗りでストップ。過度に飾らない素朴な味が気に入っている。

工事中!〜ドーモ・キニャーナ

10月よりリフォーム工事が続く。
「光庭」に組み立てられた「足場」。

リフォームといっても難工事である。
土壁に気遣いながら、大工、屋根、建具、家具などを一新する。

土壁は、左官の久住章さん作。
「出来たその時から100年前の表情」がテーマで30年前に完成。
我が家の大切な土壁。

完成はもう少し先ですが、今回のリフォームの目的の一つは「自然を取り込む」(裏山と円山川を望む)。内と外の曖昧(あいまい)さを残しつつ、快適性をより向上させること。

左官の久住章さん〜「シュトックマルモ技法」って?

大理石のテーブル?

手で触ってみても大理石そのものなのだが、実は「シュトックマルモ」(擬似大理石)という左官の技法で塗って仕上げたもの。

製作した左官の久住章さんから、直接「シュトックマルモ技法」について解説を聞く。

もともとヨーロッパで始まった左官の技法。イタリアでは、本物の大理石が手に入るのであまり発達しなかったが、ドイツ、フランスで大理石調の仕上げとして発達した。

1990年代初頭、南紀白浜に建設された「川久ホテル」のロビーの巨大な円柱にこの技法が使われている。左官の久住章さんがドイツで習得し、約1年間かけて日本の左官職人に伝授し、24本の巨大な円柱を仕上げた。その製作方法まで解説していただく。

大理石を大きな面積に使うと必ず繋ぎ目が出るが、左官でやると大きな面でもシームレスに完成する。こんな凄い技法をいとも簡単に習得し実現してしまう久住章さんは、「日本一の左官職人」、いや「世界の天才左官職人」と呼ぶのに異論はないですね。

感謝感激〜左官の久住章さん再訪

今月初めの訪問から再び、左官の久住章さんのご自宅を訪ねる。用件は後ほど書くとして、木々の中に建つ久住邸の美しい土壁とその佇まいには、訪れる度に、惚れ惚れする。

広〜い庭。庭というより森と言った方が良さそうだ。落葉広葉樹の木々は葉を落とし、地面は落ち葉の絨毯。

庭(森)の中に、ご自宅、左官道具の詰まった作業場、倉庫などが点在する。すべて美しい曲面でデザイン設計された土壁。

さて今回の用件は、お風呂の相談。

現在、自宅の改築プロジェクトが進行中。浴室の設備に大きな変更が生じ、プランそのものを見直ししなければならなくなった。技術的に、建物の構造的に、可能かどうか、重大な決断が必要になる。そこで咄嗟に「ここは久住さんに訊ねてみよう」と思い連絡し、この度の訪問となった。恐れ多くも「日本一の左官屋久住さん」に即答快諾を得て、これ以上ない感謝感激です。

プランは土、モルタル、タイルを使用するので、空間、総重量、防水、作業そのものの手順、など相談は根本的なものばかり。

改築の設計を依頼している建築家(ガラージュ)、実際に作業していただく地元の左官職人、水道配管屋さんにも帯同してもらう。関係者最強のメンバーで久住さんのアドバイスを受けることができて最良の一日となる。

土壁を剥がす〜築30年経って

自宅3階の土壁。荒塗りの壁は30年の風雨に晒され、少しずつ飛ばされ、流されているが、返って、そのことに愛着が湧く。ともに30年を過ごしたんだな、と。

今回、3階の改築のメインテーマの一つにベランダにガラスの庇を架ける工事を行うことにした。墨を入れたところをカットして、土を剥がし、中にあるだろう(?)梁に加工を施す。

解体業社さんが楔を打ち込む、緊張の一瞬。心臓を撃ち抜かれる気持ちで見守る。

いつも眺めてきた土壁の土を剥がす作業が終わる。図面通り、太い梁を剥き出しにすることができた。土壁の厚みは、想像していたよりもさらに厚く70ミリ以上ある。この厚みが外部の寒暖を防いでくれていたんだな、と感慨深い。

さて、次の段階へ進もう。

土と陶器の旅(その3)

立杭焼「陶の郷」内にある「アートギャラリー丹波」。
その空間にある久住章さん製作の土で作られたパーティションがある。
見るからに久住さんの作品ですね。

土独特の柔らかい表情がなんとも言えない。

裏面(「裏」とは言ってはダメですね、この美しさ)はこうなっている。
木と木の間は金網を巡らせその上に土を塗っていく。
パーティションそのものの立体的な波打つうねりで自立している。

壁(パーティション)の厚みは数センチなのだが、最上部は絞り込んで細いラインになっている。こうすることで、厚ぼったさを緩和し、流線の壁に仕上がっている。この辺りが久住さんのすごいところですね。

土と陶器の旅(その2)

久住章さんの案内で、立杭焼陶芸家Ichikawaさんのギャラリーを訪ねる。こちらも見事な建築とセンス抜群な室内の装飾や家具。

窓の下のカウンターは、土(左官)でできている。左にピザ窯、右には湧き水が飲める蛇口がある。壁は土、テーブル表面は和紙が貼ってある。調和のとれた空間。

アームで突き出た裸電球が面白い。2階に上がると作品の展示と多目的に使える部屋がある。ゲストを迎えての食事、くつろぎの会話、また、小さな集まりを開いてみんなで楽しむしかけがいっぱいある素敵な空間。

秘密のお風呂。(だから詳しく書けません)
山の斜面には渓流があり、森に囲まれた場所。

設計施工の久住さんから説明を聞く。
来年春の完成が楽しみだ。