『音楽と生命』 坂本龍一/福岡伸一

福岡
ロゴスの信者の私がピュシスの大切さを説くというのは矛盾していると言われるかもしれません。しかし、これまでの坂本さんとの対話でも反してきたように、どちらかを選び取るのではなく、ロゴスとピュシスの間を行ったり来たりしながら生きるのが人間なのではないかと思います。
『音楽と生命』 坂本龍一・福岡伸一
(「山の頂上から見える景色」より p183)

ふたりの会話はとてもシンプル。
ふたりが行き着いたところはひとつの円環。

話題は「ロゴスとピュシスの相剋」。
ロゴス=考え方、言葉、論理
ピュシス=人間も含めた自然そのもの

ふたりの話題は、宇宙、生命の誕生、音楽の起源、細胞とDNAへ、そして死とは何かに行き着く。

「星座を見ても宇宙のことはわからない」「地やノイズに耳を傾けよう」など示唆に富む会話が続く。

3次元、4次元に広がる宇宙(ピュシス)を2次元の「星座」(ロゴス)に置き換えてしまう人間。西洋音楽も音のブロック(ロゴス)を積み上げていかに美しいものに仕上げていくかという価値で発達してきた。ジョン・ケージは地やノイズ(ピュシス)を聴こうという挑戦を始める。

坂本龍一のアルバム『async』について。
「a」は否定語。「sync」は同期・調和・再現性。つまり、秩序や完璧な美を追求することを否定すること。YMOのテクノ音楽、端正で美しいメロディの映画音楽を否定することになる。

「山は登ってみないと次の山は見えない」。テクノと完璧な美の山頂(ロゴス)に到達した坂本が見た次の山が『async』(ピュシス)だったと。

ふたりは、こう言って会話を終わる。
「ピュシスの豊かさに戻りつつ、それを語り直すものとして新しい言葉を見つけいくいう、あてどない往還運動を続ける」
「ロゴスの極限にたどり着いた後にピュシスに戻っていく一つの円環。
人生の航路の象徴のようでもある」

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