『知の旅は終わらない』 立花隆・著

僕は、毎日毎日移動しつづけることや、屋根がないところで一晩過ごすこと、今日寝るところと明日寝るところが違う場所であることには、なんの驚きも感じないし、むしろそのほうが心理的にはしっくりくる。どこか一定の場所にしっかり腰を落ちつけた状態というのは、あまりなじめない。
『知の旅は終わらない』 立花隆・著

「僕が3万冊を読み100冊を描いて考えてきたこと」とある。このサブタイトルの通り、出生から戦前戦後の体験、青春時代、そして「田中角栄研究」「ロッキード事件」と、その好奇心(関心事)は、一つのところに留まらず、次から次へと転戦していく。「引用」は、私が読んで最も印象に残った箇所を引っ張り出すのだが、ことこの著書については、次から次へと「移動」してしまうのでテッペンが見つからない。「はじめに」の冒頭を紹介するしかない。でも、まさにこの通りなのだ。

私なりにまとめてみて、主なテーマはこんなところだろう。
「戦前戦後の引き揚げ体験」「優秀(IQで一番)な幼少時代」「東大入学と安保闘争」「青春時代の世界大旅行」「田中角栄研究とロッキード裁判批判」「宇宙、脳死、生命科学」「天皇と東大」「がん罹患と武満徹、そして死」

多岐にわたるテーマ。その中で「天皇と東大」の中の一節に東大初代学長・加藤弘之の変節」というところがある。明治時代、豊岡市出石町出身の加藤弘之は、地元の偉人として有名だが、その人物、その思想はあまり知らなかった。明治天皇に洋学の立場で西洋文明を講釈した啓蒙思想家の雄とある。もう少し、知ってみる必要がある。

私も大好きな「武満徹」とのやりとり(p383〜395)も面白い。