『日本人の勝算』 デービッド・アトキンソン・著

私の仮説ですが、アメリカは経営者に高額の報酬を与えることによって、生産性向上の動機を与えようとしているように見えます。それに対して欧州では、人口動向と政治的な思想の違いによって、最低賃金の引き上げによる底上げを図って、経営者を刺激しようとしていると解釈しています。

同じくマッキンゼーが発表した「Why management matters for productivity」というタイトルのレポートでは、生産性向上の最大の足かせは経営者だと分析しています。とりわけ、各国の経済の大半をしめる中小企業の経営者の質が低いことが問題だと指摘しています。
『日本人の勝算』 デービッド・アトキンソン・著 (p166)

「勝算」。戦争ではない。サブタイトルに「大変革時代の生存戦略」とあるように、「人口減少×高齢化×資本主義」の時代の企業生き残りのための指南書である。ここの「資本主義」とは? マネタリズム、格差問題、自由貿易の危機、そういった資本主義の変質といったところか。

これまでの経済成長が人口増加による要因が大きかったが、先進(成熟)国家では、「生産性向上」こそが経済成長の原動力。では、どうしたら生産性向上が果たせるのか?それは「最低賃金の引き上げ」という考えである。

最低賃金引き上げの6つの利点
・ もっとも生産性の低い企業をターゲットにできる(経営を変える動機)
・ 効果は上に波及する(最低賃金をあげると、その上、その上、と波及する)
・ 消費を押し上げる(賃上げによる消費増大)
・ 雇用を増やす可能性がある(就労意欲が生まれ、労働市場への参加率向上)
・ 労働組合の弱体化(最低賃金アップにより労働分配率を向上)
・ 生産性を上げる「強制力」が働く(利益圧迫、価格転嫁困難、生産性に目が向く)

なるほどの因果関係だ。だが「風が吹けば桶屋が儲かる」の小話にもあるように、直接的、速攻的な因果ではない。一中小企業がどこまでそれを信じ、コミットできるのかが重要。新たな競争が始まる。